アイスクリーム~あいうえお談

骨壺公園と呼んでいる公園がある。
正式名称ではない。
ここは高さは程良く、密集した花が咲き誇る見事な八重桜の木がある小さな公園で、
花弁の多い八重桜は一つの花がソメイヨシノよりも重量感が増すせいか、
枝がたわわに眼の高さで揺れている。
この八重桜が見頃になると、界隈の桜の季節も終わりを告げる。
最後の花見と称して、酒を片手に夜桜見物と洒落込むのは毎年の恒例行事となった。

そんなある年のこと。
いつものように八重桜の木の下で酒を飲んでいたら警察がやってきた。
自転車で駆け付けた警官が無線で何やら伝えている。

「はい。骨壺のような物が置かれています」

どうやらトイレの前にある骨壺様の物体が放置されているため通報があったらしい。
骨壺というものは墓にしまうものと認識していたが、
墓事情が田舎とは違う都会では時々ある話らしい。
ちなみに遺骨遺棄、廃棄物処理法違反の立派な犯罪である。
だからこそ警官が来たのだろうけれど。
警官達は骨壺の中身を確かめてから、それを携えて公園からいなくなった。
骨壺と警官の消えた公園に残された私は、目の前で起こった出来事を反芻しながら酒をごくりと飲んだ。

今年も八重桜が満開になった骨壺公園にやってきた。
八重桜は夜が一番美しい。
まだ少し冷える春の夜空の下で見上げる八重桜が一番美しい。
そう考えながらアイスクリームを口にした。
食べ終える頃には身体の内側からすっかり冷えていた。
八重桜は変わらず美しかった。

 

 

Marippe

食と旅について